フキゲン・ハートビート
みんなとは少し離れた場所に座っている半田くんのほうに目を向ける。
彼はスマホに夢中だった。
こっちなんか眼中にないって感じ。
おまけにイヤホンまでシッカリ装着しちゃっているし。
……ああ、なんか、思い出すなあ。
あのころも半田くんの耳にはよくイヤホンがささっていたっけね。
中学時代、彼はいつも自分の席で、ひとりでいた。
イヤホンをして、漫画を読んだり、スマホをいじったり。
時には机に突っ伏して寝ていることもあった。
半田くんに話しかける子はほとんどいなかった。
半田くんが誰かに話しかけているのも見かけたことがない。
そういえば、友達とか、いたのかな。
……たぶん、ちゃんとそう呼べる存在はいなかっただろうな。
「ねえ」
スマホゲームをしている仏頂面の前に立ち、話しかけるも、案の定ガン無視された。
ていうか聞こえてないのかもしれない。
いったいどれほどのデカイ音でナニを聴いてんだ。
「ねえってば」
スポッとイヤホンを抜いてやる。
すると目の前の不機嫌オトコは、眉間にものすごく深い皺を刻みながら、ゆっくりと顔を上げたのだった。
「……なんだよ」
「ねえ、メッセージ、教えてよ」
「は? 無理」
即答かい。
「なんでよ?」
「いや、コッチの台詞だろ。なんでマシマ・アオイに連絡先教えなきゃなんねーんだよ」
「いいじゃん。定期のお礼もしたいしさ」
「いらねーよ、そんなもん」
吐き捨てるみたいに言いながら、半田くんは抜け落ちたイヤホンをもういちど装着してしまった。
もうおまえとは話すことねーよ、
と、体からも、態度からも、すべてで言われているみたいだ。
本当に、むかつく、やっぱり、何度でも。