フキゲン・ハートビート


網の上でタンがきゅうっと縮こまっている。

その様子をぼうっと眺めていると、右隣に座る俊明さんがそれをひょいとトングでつかみ、あたしの小皿に置いた。


「オレらの奢りだから、遠慮しないでジャンジャン食ってな」


正面のキラキラフェイスが笑って言う。

まさかあのアキ先輩と向きあって焼肉を食べる日が来るなんて、中学のころは夢にも思っていなかった。

こんなきれいな顔の男性に見つめられながら食べて、お肉の味なんか、わかるかな。


「あの……」

「ん?」

「……いえ、いただきます」


アキ先輩が満足げに笑う。

ウマイ?と聞かれる。

ぶっちゃけ、緊張して味どころじゃなかったけど、うなずいておいた。


カルビ、ハラミ、ミノ、トリモモ。
次々と運ばれてくるお肉は、洸介先輩がどんどん注文しているみたいだった。

たまになにを食べたいか聞いてくれるけど、なんでも食べるからそう伝えていたら、様々なお肉がやってきた。

でも、洸介先輩自身がレバーを嫌いみたいで、いつまでたってもキモだけはこなかった。


基本ブラックホールなので、皿に乗せられたぶんはドンドン食べた。

びっくりされた。

けっこう食うねって、アキ先輩に笑われる。


「寛人と蒼依ちゃんの食欲を足して2で割ったらちょうどよさそう」


ヒロト、

という名前が出て、思わず肩が跳ねてしまう。


3人のお兄さんたちは、やはりそれを見逃してはくれず、突然いっきに空気が変わった。

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