フキゲン・ハートビート
いつのまにか洸介先輩がクッパを注文していた。
ちゃっかり自分の分だけ頼んでんじゃねーよ、とアキ先輩が笑いながら怒る。
そんな様子を、俊明さんは相変わらずのなごみ顔で優しく見守っている。
なんか、いいな。
この人たちはきっと学生のころからこんなふうだったのだろう。
そして、寛人くんはいつも、この輪のなかで、どういうポジションにいるのかな。
いつもみんなから少しだけ離れたところにいるあのネコ顔、
つまらなそうなあの表情を思い出して、なんとなくさみしいような気分になってしまった。
「寛人、すげえ悩んでるみたいだったよ」
ウーロン茶をひとくち飲んだアキ先輩が、ふいに口を開いた。
とても静かな声だった。
運転手の俊明さんに気を遣ってか、アキ先輩も洸介先輩もきょうはウーロン茶だ。
ちなみに、あたしも。
「あいつはなんにも言わねえけど」
アキ先輩はやっぱり笑う。
この人は本当にいつも笑っているな。
「ヒロはアキにだけは意地でもなんにも言わないからな」
「いや、マジでトシ、それけっこう気にしてることだかんな? おまえいっつもわざとだろ、絶対」
でも、笑った顔も、ぜんぜん似ていないのだ。
笑い方が本当に違う。
アキ先輩は顔をくしゃっとさせて無邪気に笑うけど、寛人くんは絶対、こんなふうにしないもんね。
心底めんどうって感じに眉を下げて、くちびるの端を仕方なさそうに持ち上げて。
本当は笑いたくないってふうに、息を吐いて笑う。
頭のなかにポコンと浮かんでしまったあの不機嫌なネコ顔をかき消すように、皿に転がっているホルモンを口に押しこんだ。