フキゲン・ハートビート
「蒼依ちゃん」
もちゃもちゃ、必死になってホルモンを噛んでいるときに話しかけるのはやめてほしい。
あわててウーロン茶で流しこみ、箸を置いた。
アキ先輩がチョット改まった声を出したから、なんとなくあたしもぴんと背筋が伸びた。
「は、はいっ」
「蒼依ちゃんの話、1ミリも聞かずに、勝手なことばっかりしゃべってごめんな」
優しい、お兄さんらしい声。
「どうしても寛人のほうに偏った話になったのも、ごめん。蒼依ちゃんにもいろいろ事情があると思うのに」
「そんな、あたしは……」
言いかけて、やめた。
なにを言おうとしていたのかもわからないけど。
でも、この人には、この人たちには、すっかり見透かされているような気がしたのだ。
あたしの気持ち、心、全部を。
恥ずかしいくらいに。
「20年間あいつの兄貴やってるけど、あれだけ悩んで荒れてんの見るのははじめてでさ。要領よく何事もサラッとこなすような、いつもはクソ腹立つやつだから、もうオレらのほうがテンパっちゃって。思わず3人で会議開いたりして。な?」
「うん」
「そうだな。ここ2週間はよく飲みに行った」
洸介先輩と俊明さんが、ちょっと笑みを浮かべながら同意する。
「だからどうしても蒼依ちゃんと話してみたかったんだ。……もし嫌な気持ちにさせてたら、本当にごめんな」
かぶりを振った。
アキ先輩は安心したみたいに深く頷いてくれた。