フキゲン・ハートビート
「正直、俺たちはなにも事情を知らないし、踏みこんだことは聞かないでおこうとも思ってるんだけど。でも、蒼依ちゃんとヒロのあいだにわだかまりがあるなら、それはすごく嫌だなあと思ってて」
今度は俊明さんが諭すような声を出す。
「若いやつらにはやっぱり元気でいてもらいたいしさ」
「トシは年々おやじくさくなってく」
「ははっ、そこは落ち着いた大人の魅力って言ってくれよ、洸介」
たしかに、3つしか変わらないなんてとても信じられないくらい、俊明さんは落ち着いているというか。
やっぱり言うことが違うというか。
それをオヤジクサイとか淡々と言い放ってしまう洸介先輩に、思わず笑うと、笑われてんぞ、とアキ先輩が茶化すように言った。
「まあとりあえず、ユカのことは本当に気にしないほうがいいよ」
仕切り直すように俊明さんが言った。
心臓がドッキーン!と跳ねる。
この人たち、本当になにも知らないわけ?
絶対ウソ、絶対ぜんぶわかっていらっしゃる。
そんなせりふがサラッと出てくるなんてまずありえないもんね。
それとも、本当に様子のみでそこまで察しているのだとしたら、それはスゴイことだと思う。
寛人くんが、3人から、それだけ大事にされているということだ。
「そーそ。あそこは結局ユカからふってんだし」
「ユカはヒロのことナメすぎ。やりたい放題にもほどがある」
「昔の女に束縛され続けるとか悪夢でしかねえよ。たまにマジでユカがこえーもん、オレは」
「どこかで断ち切らないと、ヒロもユカもしんどいだけだしな」
「ヒロも、ちょっとユカに甘すぎ」
「まあ洸介も季沙にゲロアマだけどな?」
それぞれしゃべって、ひと息ついたあと、3人はいっきにあたしを見た。
ビクッとした。
食べかけていたホルモンを、ぽろりと落とした。