フキゲン・ハートビート
きれいな顔をしているということには昔から気付いていた。
アキ先輩の弟だから当然だ。
性格は正反対でも、造形だけは本当にソックリな兄弟なのだ。
猫っぽい、ぱっちりふたえのつり目。
半田くんは猫科の顔をしていると思う。
それにけっこう、幼い顔をしている。
怒った顔、やめたらいいのにな。
そうしたら絶対、いまの100倍はカワイイのに。
「あたしと友達になってよ、いまから」
わりと本気だった。
中学時代をやりなおせたらいいな、と思った。
それで、お互いいろんなこと知って、その心が溶けて、半田くんの仏頂面もなおったらいい。
そんな気持ちで右手を差しだした。
握手のつもりだった。
「無理」
でも、あたしの右手を握るはずだったその右手は、スマホを握りしめたまま離そうとしない。
「む、むりって言った? いま……」
「言った。きもちわりい。なに、マジで。真島ってそんなやつだっけ?」
ゆるゆると右手が重力に引っ張られて、やがてフカフカの椅子にバウンドして、落ちた。