フキゲン・ハートビート
ふと、会場がヘンにざわついていることに気がつく。
バカみたいにしゃべって騒いでいたあたしたちも、なんとなくソッチのほうに目を向ける。
――ばちり、と。
瞬間的に、明確に、視線が合った。
相変わらず、完璧にきれいな顔の真ん中に君臨している、ふたつのつり目。
いつもはシャツなんかをぺろっと着ているだけなのに、きょうはジャケットを羽織っている。
ああ……顔を見るのさえ、2か月ぶりだ。
「……なあ。ハンダ、こっち見てね?」
「バカ、おめーがウルセェからだろ」
男子がヒソヒソしゃべっている横で、
「ヤバイ、超かっこよくなってない?」
「雰囲気あるよね~」
女子がキャーキャー騒ぐ。
あたしは見事にフリーズしたまま動けなかった。
寛人くんも同じように、3メートル先に立ち、ただコッチをじっと見ていた。
声を、かけて、いいものか。
たった数秒のうちに、死ぬほど悩んだ。
だって、いまこの場で気軽に声をかけていいほど、あたしたちはなんの問題も抱えていないわけじゃない。