フキゲン・ハートビート


「笑ってんじゃねーよ」


口が勝手に動いていた。

自分でもびっくりするほどコワイ声が出た。


「エラぶってるとか言うけど、あいつは、あんたらよりは確実にエライよ。16で上京して、誰にも頼らずに向こうでひとりで頑張って、ちゃんと仕事をまっとうしてさぁ。あんたらこそ、何様だよ?」


半田寛人のこと、なにも知らないくせに。


あいつがどれほど本気でバンドをやっているのか、ぜんぜん知らないくせに。

あいつがどれほどスゴイやつなのか、かけらも知らないくせに。


「はあ?」

「誰だよ、アンタ」

「半田の、ナニ?」


ナニ、と聞かれると、ちょっとうまいこと答えられなくて困る。

だからそこは、無視で、ゴメン。


「たしかに愛想はチョット悪いけど……いや、チョットどころじゃないけど。でも、あたしはあいつのこと、スゴイかっこいいと思って、スゴイ尊敬してんの。だから、よく知りもしない外野が勝手なこと言わないでくれる。むかつくんだよね」


自分がなにか言われるより、自分の大切な存在がヒドイコトを言われるほうが、よっぽど腹が立つということ、はじめて知った。


「ハハッ……。え~? なんか言ってるけどお、しょせんあんなの、アキ先輩のオマケっしょ?」


3人のなかでいちばんケバイ女が言った。

ベタッとしていそうなファンデーションが手のひらにつくのは心の底から嫌だったけど、カッとして、思わず平手打ちしていた。


「オマケじゃない!」


寛人くんは、寛人くんだ。

誰のオマケでもない、
ひとりの、最高にカッコイイ男の子だ。

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