フキゲン・ハートビート


いつのまにかあたしたちのまわりには人だかりができていた。

なにがあったんだって野次馬根性はあるけど、できれば関わりたくねえって感じの、微妙な距離感。



「――蒼依!」


その人混みのなかで、強い声があたしを呼んだ。


寛人くんだ。

聞き違えるはずがない。


あたりを見渡すと、声の主は人の波をかきわけて、やがて顔を出したのだった。


「おまえ……なに、こんなとこで喧嘩し始めてんだよ」


あきれたような、怒っているような顔。


「……うるさいな。関係ないでしょ、黙っててよ」

「関係は大アリだろうが、内容的に」

「はあ? だったらあんたがこの女に言い返したらどうなの!」


2か月ぶり、せっかくの対面なのに、こんなヒドイ会話で始まってしまって、悲しい。


いろいろといたたまれず、そのまま地面を蹴ると、パンプスをわざとらしくカンカン鳴らしながら外へ出た。

信じられないほど寒かったけど、コートを着る気にはなれなかった。


本当にサイテー。
また怒鳴っちゃったよ。


どうしてあたしはいつもこう、うまくいかないんだろうね。

感情的になっちゃって、ダメだね。

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