フキゲン・ハートビート


「蒼依。そろそろ出れそう?」

「あああ、あとちょっとだけ待って! 髪の毛がいっこうにまとまらない!」

「早くしろよ、道混むだろ。だから目覚ましかけとけって言ったのに」


なにおう、エラそうに、きのうの夜寝かせてくれなかったのは誰だ!

と、心のなかで文句を言ったあとで、ひとりで赤面。


あぶない。
またエロイ人になってしまうところだった。


ピシッとしたスーツを身にまとい、白いネクタイを締めながら不機嫌そうな顔を浮かべる、相変わらずな半田寛人とつきあい始めてから、およそ1か月。


本日、2月14日のバレンタインデー。

きょうはいよいよ、アキ先輩とみちるさんの結婚式だ。


パーティードレスは深めのバイオレットを選んだ。

テロっとした生地の、まったくどこもふわふわしていない、比較的シンプルなやつ。


それでも、もともと普段からパンツスタイルが好きなので、膝丈のスカートというだけで慣れないし、薄いストッキングにパンプスだしで、なんだか全体的にスースーする。

助手席で何度も「おかしくない?」と聞くあたしに、最初は面倒くさそうに答えてくれていた寛人くんも、やがて完全なシカトをキメだした。


「ちょっと、無視しないでよ」

「ウルセェ」


ふたりの関係が変わっても、彼のウルセェ、ウゼェはやはり健在で、困ってしまう。

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