フキゲン・ハートビート


内輪だけの式になるということは前にみちるさんが言っていたけど、本当にそうらしかった。


洸介先輩と季沙さん、俊明さん、新奈。

それからマネージャーさんらしい男性と、事務所の社長さん。

あとは、みちるさんの仲の良い同僚さんたち、上司。


それから……


「――寛人!」


ウワッ、アキ先輩も寛人くんも、完全にお母さん似だ!

と、瞬時に思うくらい、その女性は驚くほどふたりによく似ている。


見た瞬間にわかった。この人がお母さんだって。

小柄で、すごくきれいな女性だ。


とすれば、隣にいる背の高い、たれ目の男性が、お父さんかな。


「あー。おはよう」

「オハヨウじゃないわよ。ベッピンな女の子連れちゃってね! この子が噂のアオイちゃんでしょ?」

「どこで噂なのか知らねーけど、そう」

「だいたい彰人がなんでもしゃべるからね、ウチは」


見た目は同じでも、中身は寛人くんとぜんぜん違う、とても快活な女性だ。

心底嫌そうな顔をして首をひねる寛人くんの背中を、小さな手のひらがバシバシたたく。


そうして、突然くるりとコッチに向き直った彼女に、思わず背筋がピンと伸びた。


「はじめまして。彰人と寛人の母です」


父ですと、隣の男性が続けた。


「あ……はじめまして、真島蒼依です!」

「ヤダ、緊張してる? カワイイ!」


死ぬほど、恥ずかしい。

ウチの両親に会ったとき、すごく淡々としていた半田寛人は、ひょっとしたらものすごいやつなのかもしれない。

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