フキゲン・ハートビート


「俺、この店好きで、たまにひとりで来ててさ。こないだも『あれ、もしかして』って思ってたんだ。ヒロと盛り上がってたから言い出せなかったけど」


なんですって?
あんなやつとは断じて盛り上がってなどいませんが。


「いつもテキパキしてて、言葉遣いとか、ひとつひとつの動作とか、いちいち丁寧で、いい店員さんだなって印象に残ってたから。すぐわかったよ」

「そんな……」


あまりにも褒めちぎられすぎている。
なんだか脇のあたりがむずがゆい。


「あたし……ぜんぜん気付かないで、しかもこないだは本当にご迷惑おかけして、申し訳ないです」

「いやいや、俺はなんにも迷惑かけられてないよ」


そんなことはないだろう。
それに、いろいろと醜態を晒しまくってしまったのは事実なわけで、いまはどちらかというとものすごく恥ずかしい。


「マシマ・アオイちゃん……だっけ。これも縁だし、よかったら俺と連絡先交換しませんか?」

「えっ!?」

「あ、変な意味じゃなくて。結局あの日はヒロと交換してなかっただろ? だから、かわりってわけじゃないけど」


みんなの隣でニコニコしているだけかと思っていたけど、ちゃんと周りの様子をシッカリ見ているんだな。

“あまいたまごやき”はたぶん、この人ありきのバンドなのだろう。わかります。


「あんなに真正面からヒロと絡めるやつってはじめて見たから、ぜひともほんとに、今度の飲み会には来てほしいと思って」


いや、だから、そこかよ。

というツッコミは、すんでのところで飲みこんだ。

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