フキゲン・ハートビート
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  ☔︎


「なー、蒼依(あおい)。ライブ行かへん?」


ちょっと甘えたような関西弁といっしょに、細長い紙切れが2枚、手元へ降ってきた。


「知ってるやんな? あまいたまごやき」


思わずスマホをタップする指を止めて顔を上げる。


“あまいたまごやき”

冗談みたいな名前のそのバンドには、とても親しみがあったから。


「ホンマは元カレと行く予定やってんけどー。ほら、ウチら先週、別れたやん? だから1枚余ってもーてて」

「ああ、そういえばそんな事件もあったっけ……」


こいつ、もうケロッとしてやがる。
先週はあんなにわんわん泣いていたくせに。


まあ、切り替えが早くてポジティブなのは新奈(にいな)の長所でもあるんだけどもね。関西人って感じで。

新奈のほかに、関西人の知り合いはいないけど。


「なあ、行こうやあ、蒼依。来週の日曜日!」

「んー」

「予定あるん?」

「いや、ないけど……」

「ほな、なに?」


べつに隠しておくことでもないか。


「……実はあたし、中学いっしょなんだよね、そのバンドの人たちと」


正直に告白すると、ピンクのアイシャドウで彩られているくりくりの目が、いっきに輝いた。


「え、うそやん! ホンマに!?」


ついでにマツエクがぐるんと軽快に踊る。


中学が同じだと言っても、メンバーの誰かと親しかったとか、そういうわけではない。

親しいもなにも、たぶん、先輩だったふたり(、、、、、、、、)はあたしの存在すら知らないだろうし。


あたしが一方的に知っているだけ。


特に、ボーカルのアキ先輩。

彼は当時からみんなの憧れの的だったのだ。

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