フキゲン・ハートビート
トイレのやわい光が新奈の顔をオレンジ色に照らしている。
それを眺めながら、どこか現実感のない、ふわっとした気持ちになった。
体内をまわりはじめたアルコールのせいかもしれない。
「洸介とキサさんってな、家が隣どうしの幼なじみで、生まれたときからずーっといっしょなんやって。ずーっといっしょにおって、高校のときにつきあい始めたんやって。そっからまったくケンカもせんと、ずーっとずーっと、つきあい続けてるんやって」
「へえ。それならもう、つけ入る隙もなさそうだし、サクッとあきらめるしかないね」
「ちゃうやん!」
なにが違うというのだ。
新奈があたしの両肩をがしっと掴む。
そして、ずいっと顔を近づけてきた。
想像以上に真剣な表情で、ちょっと怖気づいてしまった。
「なあ、それってつまり、洸介はほかのオンナの魅力を知らんと生きてきたってことやろ? ということは! いまここでウチが、キサさんとは違った魅力をアピールしたらいいと思わへん!? 洸介の新しい扉を開いたらいいねん!
――蒼依、これはな、チャンスやで」
なに言ってんだコイツ、
とも思ったけど、モノは考えようだなあとも、チョット思った。
恋愛における新奈のポジティブさと積極性にはいつも感心する。
もちろん、あたしだって手放しで友達の恋を応援したい。
その相手が誰であろうと、その気持ちがゼロなわけじゃないんだ。
でも、ねえ……。
「……あのふたりの仲の良さ、見てたらわかるじゃん」
今回ばかりは心から応援できそうにもない。
だって、そう、見たらわかるじゃん。
あのふたりのあいだにある、圧倒的な絆、歴史。
新奈のつけ入る隙なんか、1ミリだってないじゃん。