フキゲン・ハートビート


個室に戻ると、相変わらず新奈は洸介先輩にべったりだった。

それを見てまたもやもやしていたら、あきらかにあたしに気付いているはずの新奈に、ガン無視された。


ソッチがその気なら、コッチだって。


「よーし。ハイボール飲むぞ~!」


席につくなりそう言ったあたしに、半田くんがぎょっとした顔を向けてくる。


「気分ワリィからトイレ行ってたんじゃねえの?」

「あー、違う違う! こんなんでツブれないから。むしろぜんっぜん飲みたりないから!」


それに対し、大丈夫なのかよ、とつぶやいたのはすごく低い声。

この男にそんなことを言われるとは思ってもいなかったな。

ダイジョウブなのかって、もちろん、ダイジョウブですよ。


「ハイボール、ねえ、注文してくださいよ、半田寛人クン」

「どこが飲み足りないんだよ。おもいっきり出来上がってんだろうが」

「はーやーくー!」

「わかったから、黙れ、ウゼェ」


ウゼェとか、悲しいから、言うな。


悪かったな。


ウゼェやつで、悪かったな。

こんな人間で、悪かったな。


悪かったな。


……悪かったよ。


「……でも、じゃあ、なんて言えばよかったんだよ……」


ハイボールがナミナミ入ったジョッキをぎゅっと抱きしめる。

冷たい。寂しい。悲しい。


……ああ、あたしも、冷たい人間か。

冷たくて、リアリストを気取っている、ウゼェ人間か。


あーあ。イヤになっちゃう。

さっきまであんなにおいしかったはずのお酒が、いまはもうぜんぜん、おいしく感じられないや。




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