フキゲン・ハートビート


パニックになりながら、はじかれたようにベッドを降りる。


頭がドクドク痛んで吐きそうになった。
カンッペキ二日酔いだ。

でもいまはそれどころじゃないので、ベッドのすぐ隣のすりガラスの引き戸をおもいきり開け放った。


いったいあたしは誰に“お持ち帰り”されたというの……!



「……おはよう」

「ひっ……!?」



――どうして、この男が。



「元気そうだな」


ゆるい黒のプルオーバーに、黒のジョガーパンツ。
それから太い黒縁の眼鏡を装着しているまっくろくろすけな半田寛人は、ちょっとあきれたような、それでいてやっぱり不機嫌そうな顔を浮かべながらこちらを見た。


……ああ、誰か、嘘だと言って。

あたし、もしかしなくとも、この男にお持ち帰りされたの。


ドアの手前で動けないあたしにかまわず、まっくろくろすけはおもむろに冷蔵庫へ向かっていく。

そうして500mlのミネラルウォーターをこっちに差しだしながら、


「なにボケッとしてんだよ?」


と、平気で言った。


「……イヤ、マジで、ちょっと、待って」


うわごとのように言いながら、わけもわからず水を受けとる。
キャップを外し、とりあえずひとくち飲んだ。

……ああ。水がウマイよ。


「……いやいや、じゃなくて、ちょっとマジで待って、意味わかんない、ウソでしょ……」


それでもやっぱり落ち着かなくて、
わけがわからなくて、
なにも思い出せなくて、

……困る。

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