フキゲン・ハートビート
「……なにも、してない、よね……? その、いかがわしいこと、トカ……なんて、はは……」
震える声を、やっとの思いでしぼりだす。
そしたら、もうすでにあたしに背を向けていた仏頂面がぐるんとふり返って、
「は?」
と、ものすごーくドスのきいた声で言った。
なに言ってんだコイツ、みたいな顔。
心外だ、って感じの顔。
フザケンナコロス、って、顔。
ググッと。
そのきれいな顔のまんなか、眉間の皺がどんどん深くなっていく。
……もしかしなくとも、怒っていらっしゃるのかもしれない。
つまり、あたし、かなりマズイことを言ってしまったのかも。
「だ、だって! 服違うし! ベッドで寝てたし! お酒……入ってたし。仮にも、その、男女なワケだし……」
言い訳みたいにならべた言葉を、半田くんは聞いているのかもわからない。
「おまえ、人の服に盛大にゲロっといて、よくそんな心配ができるな」
だんだん小さくなっていくあたしの声が完全に消えるのを聞き届けたあとで、あきれたように、彼はそう言ったのだった。
「こっちが止めるのも聞かずに飲みすぎて、ツブれて、吐いて、オマケに記憶まで飛ばしたのかよ?」
……ツブれて。
記憶まで、飛ばして。
人の服に、盛大に……?
「さすがに……嘘、だよね?」
「ふざけんなよ。嘘だったらおまえはいまここにいねーよ」
怒りを通り越しました、
あきれすら通り越しました、
という感じ。
それは、もう完全にあたしに対してなんの感情もないってふうな、とても無機質な声だった。