フキゲン・ハートビート


そう思って黙っていると、今度は半田くんのほうが口を開いた。


「……まあ、酔っぱらいがびいびい泣きながら謝ってんの見捨てるほど、冷たい人間じゃないつもりなんで、おれも」

「えっ、泣き……!?」


嘘でしょう?
挙句の果てに、泣き顔まで見られてしまったというわけ。


「……おまえ、マジで全部の記憶ぶっ飛んでんの?」


眼鏡のけっこう似合う顔立ち。
というか、もともとがきれいな顔をしているから、なんでも似合ってしまうのだろう。

そんなネコ顔が、座ったままゆっくりあたしをふり返った。


「だせーヤツ」


こっちを見上げて、あきれたようにそう言った半田くんは、ちょっと笑っていた。


しばらくその顔をボケッと眺めていたと思う。

数分、数十秒。
いや、実はほんの一瞬だったのかもしれないけど、とても長い時間に感じられた。


見とれていたんだ。不覚にも。不本意ながらも。

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