フキゲン・ハートビート
「つーか、きょう、なんもねえの? 学校とか、バイトとか。ふつうに月曜だけど」
ガッコウ。バイト。
その単語でいっきに現実に引き戻される。
反射的に時計を探した。
シミひとつない真っ白な壁に、オシャレな銀色の掛け時計がくっついているのを見つけた。
短い針が、11と12のあいだ。
11時半、ちょっと過ぎか。
まあ、これから行こうと思えば3限から間に合うかな?という感じ。
でも、アタマ痛いし、気持ち悪いし、ダルいし。
それから、いろんな精神的ショックもありますし。
「……きょうは、いい。やめとく」
大きく、ゆっくりかぶりを振ったあたしに、半田くんはちょっと考えた顔をした。
「なら、まだ休んどけば?」
そして、答えを見つけた感じに、言った。
「どうせ二日酔いだろ? 顔色ワリィ」
「う……」
ごもっともでございます。
「おれ、これからちょっと出るから。ベッドとかキッチンとか洗面所とか、まあ好きに使っていいし、ちょっと休んどけよ」
「え!? そういうことならぜんぜん帰るよ、いまからでも……」
「アホか。そんな状態の人間をひとりで帰せるわけねえだろ」
言い終わると同時にマグカップのコーヒーをすべて飲み干したネコ顔のまっくろくろすけは、あたしの返事なんか聞かないまま、カウンターキッチンのむこう側へ行ってしまった。