フキゲン・ハートビート


「つーか、きょう、なんもねえの? 学校とか、バイトとか。ふつうに月曜だけど」


ガッコウ。バイト。
その単語でいっきに現実に引き戻される。


反射的に時計を探した。
シミひとつない真っ白な壁に、オシャレな銀色の掛け時計がくっついているのを見つけた。


短い針が、11と12のあいだ。
11時半、ちょっと過ぎか。

まあ、これから行こうと思えば3限から間に合うかな?という感じ。


でも、アタマ痛いし、気持ち悪いし、ダルいし。

それから、いろんな精神的ショックもありますし。


「……きょうは、いい。やめとく」


大きく、ゆっくりかぶりを振ったあたしに、半田くんはちょっと考えた顔をした。


「なら、まだ休んどけば?」


そして、答えを見つけた感じに、言った。


「どうせ二日酔いだろ? 顔色ワリィ」

「う……」


ごもっともでございます。


「おれ、これからちょっと出るから。ベッドとかキッチンとか洗面所とか、まあ好きに使っていいし、ちょっと休んどけよ」

「え!? そういうことならぜんぜん帰るよ、いまからでも……」

「アホか。そんな状態の人間をひとりで帰せるわけねえだろ」


言い終わると同時にマグカップのコーヒーをすべて飲み干したネコ顔のまっくろくろすけは、あたしの返事なんか聞かないまま、カウンターキッチンのむこう側へ行ってしまった。

< 63 / 306 >

この作品をシェア

pagetop