フキゲン・ハートビート
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  ☔︎


ライブ会場は想像以上に混雑していた。

新奈がツアーグッズを欲しがるので、昼過ぎからグッズ列に並んで、どうせならとあたしもタオルを買った。


それにしても、“あまいたまごやき”というのはいまや、ものすごいバンドになってしまったのだなあ。

あたしは、まだ彼らのシロウト時代、小さなライブハウスでしていた対バンしか見たことがないから、なんだかこんなのはちょっと信じられない。


半田くんたちがデビューしたのって、たしか中3のときだったっけ?

今年ハタチになるんだからもう5年くらいたっているってことだ。
5年で、バンドがこんなに大きくなったってことだ。


本当に、すごいなあ。



「蒼依、さっきからずっとそわそわしてるね」


新奈が小さく笑った。


「だってねえ、まさかこんなになるなんて思ってなかったもん。中学生のころに何回かライブ見たことあるけど、こんなじゃなかったよ」

「うわ! ええなあ! 誘ってぇや~」

「まだ新奈とは出会ってもなかったでしょーが」

「あーあ、ウチも洸介たちと同じ街で生まれ育ちたかったー!」


そんなに好きなのか。

新奈があまいたまごやきを好きなことは知ってたけど、まさかここまでのファンだったとは。


「そうだ。学生時代の自主制作CD、よかったらあげようか?」


ふと、思いつきで言ってみた。

“あまいたまごやき”を昔から知っている身としては、新奈のその横顔がなんとなくチョットうれしかったのかもしれない。


「えっ、いいん!?」

「ゼンゼンいいよ。たぶん実家にあると思うから、また機会があったらこっち持ってくるよ。ちなみに、洸介先輩に手売りしてもらったやつだよ」

「なっ……、か、か、家宝にする……! ホンマにうれしい、ありがとう蒼依~!!」


そう、実家の押入れに封印されているよりも、ファンの人に家宝にしてもらったほうが、きっとCDも幸せに決まっている。

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