フキゲン・ハートビート


「……あのさ、半田くん」

「それ」

「え?」


それ? って、どれ?


「ハンダクン、ってやつ、やめろよ。兄貴とかぶってしょうがねえから」


いや。かぶるもなにも、同じ姓の同じ家族なのだから、いたしかたないのでは。


「ヒロトでいい」


けれども、あたしがそんなツッコミを入れる前に、彼は信じられないことを言い放ったのだった。


「ひっ!?」

「……まあ、べつに嫌なら、いいけど」


半田くん……、半田寛人、

――“寛人”?


「いや。いやいやいやいや!」


あたしがこいつを?
“寛人”呼び?


いやいやいや!

いやいや!


……いやいやいやいや!


「もういい」

「いや……待って。あの、ぜんぜん、嫌とかそういうわけではないんだけどもね」


むしろ恐れ多いほうが強いといいますか。

アレだ、
だって、仮にもこの男、芸能人じゃなかった?


それになにより、とにかく驚いてしまい、それどころではないのである。

まさか半田くんのほうからこんなことを言ってくるとは、たぶん世界中の誰も想像すらしていなかったはずだ。


「……うん、じゃあ、あたしのことは“蒼依”でいいです。対等なカンジで……ここはひとつ、お願いします」

「うん。わかった、蒼依」


いや、それはチョットさすがに適応能力が高すぎるんじゃないですか?


でも、たしかに、アオイ、って。

いま、あの半田寛人が、あたしのことをふつうに名前で呼んだのか。

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