フキゲン・ハートビート
食事のあと、彼は本当にウチまで送ってくれたのだった。
俊明さんから譲ってもらったという、あの車。
「ていうか、ほんとに家近かったんだねえ! 歩けるくらいじゃない?」
「徒歩だと30分以上かかるだろ」
シートベルトを外すあたしを横目に見ながら、興味なさそうに声を出す。
でも、返事、スゴイしてくれるようになった気がする。
きのうの飲み会ではほとんどシカトこいていたことを思えば、これはかなりの成長だ。
「……あ。そうだ、洋服はまた今度、洗って返すね」
ゲロまみれになってしまったらしいシャツにかわって、いまあたしを包みこんでくれている黒いスウェットは、まぎれもなくこの男のものだ。
助手席側のドアから覗きこむようにして声をかけると、つり目がコッチを一瞥して、ちょっと考えるような顔をした。
「いいよ。やる」
そして、なんでもないようにそんなことを言った。
「え!?」
「安もんだし、捨ててくれればいいから。返してもらったりとか、面倒」
昔から面倒くさがりなやつだとは感じていた、
けど、ここまでとは思わなかった。
「でも、あたしの服は……」
「……あー。とりあえず、いまクリーニング出してるから、終わり次第なんとかして返す。トシさんと連絡つくんだよな?」
「うん……、そうだけど」
「なら、そういう経路がいちばんいいよな」
そうかな。
いちばんいいのは、あなた様があたしへ直接返してくれる、というルートじゃないかと思いますが。