フキゲン・ハートビート


「ヒロは本当にまじめなやつなんだけど、そのぶん偏屈で変わり者なとこも多くて。自分のテリトリーをすごく大事にしてて、そこを他人に侵されることを良しとしない、みたいな」

「あ……それは、ちょっとわかります。自分のなかのポリシーみたいなのがハッキリ確立されてる感じですよね」

「そうそう、必要以上にモノを持ちたがらないところとかも。それがいきすぎてるのか、放っておくとメシもあんまり食ってないみたいなんだよ。一日一食とか、なにも食べない日もザラにあるって」


それを聞いたら妙に納得してしまった。

新品みたいにピカピカだったキッチンも、スーパーでのどうにも慣れていなさそうな様子も。

それに、食事をするのもかなりのスロウペースだったし。


この男は普段いったいなにを食べて生きているのかと思ったけど、なるほど、なにも食べずに、生きているのか。


「ドラムは体力必要だし、せめて3食はちゃんと食えって言ってるんだけどね」

「ほんとですね……」

「蒼依ちゃんからも言ってやってよ。できればガツンと叱ってもらえるとありがたい」


それはジョークとして聞き流しつつ、中学のころより幾分か成長していた彼のフォルムをなんとなく頭に思い浮かべてみる。


ああ、タテもヨコもこぢんまりしているのは、そのせいか。

顔が真っ白なのも、そのせいか。


成人男性に必要な栄養が、果たしてあの体に足りているのかな。

突然ブッ倒れたりなんかしなければいいのだけど。

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