手の届く距離
14cm
北村祥子:現実と夢の狭間
空腹に度数の強そうなお酒を押し込んだから酔っ払うのも、気分が悪くなる可能性も覚悟の上。
本来なら家呑みをしたいところだが、お互い実家で、人がいていろいろ構ってくる実家より店の方が呑みやすい。
責任持って家まで連れて帰るからつぶれるまで飲めと言った晴香さんに甘えて、洗いざらい広瀬さんの駄目なところをあげた。
川原の前で泣いてしまったから、晴香さんの追求に音を上げるのは時間の問題だろうし、ちくちく突かれるよりは自分でぶちまけたほうが気分が楽だと思ったのもある。
悔しいのは、ほら見なさいとばかりに「やっぱりね」と頷く晴香さんのわかったような顔。
どうせ周りが見えてなかったですよ。
すみませんね。
恋愛下手なんですよ。
ストライクゾーンが狭いんですかね。
また恋愛できるかな。
自信なくなっちゃった。
そういえば、初めて川原がかっこいいって思う女子の気持ちがわかりました。
晴香さんが川原をオススメする気持ちが理解できたかも。
今まで意識しなさ過ぎて、今更な気もする。
かわいくて従順な大型犬だからこそ、癒しされたのだろうか。
アニマルセラピーと言われるくらいだ。
もふもふした毛に顔をうずめるのもいいと思う。
「祥ちゃん」
さすがにお互い呑みすぎた。
ぼちぼち帰りましょう。
でも帰れるかな。
晴香さんみたいにかわいい子なら手伝ってくれるけど、私みたいな男勝りじゃ相手してもらえない。
負けたくないし、頼りたくない。
お兄ちゃんに言われてるんです。
男に隙を見せるなって。
でも、広瀬さんには見せていいと思ったんですよ。
その判断が間違ってたからダメなんですけど、お兄ちゃんに怒られるかな。
せめて、歩いて帰る。
でも、さすがに真っ直ぐ歩ける自信はないから、支えてください。
「ええ、無理ぃ」
そんなこと言わないで、晴香さんじゃなきゃイヤです。
男にはもう頼りません。
「祥ちゃん、そろそろ男の子慣れしなさいよ」
何言ってるんですか。
私上にも下にも男兄弟がいて、男バスのマネやってたんですよ。
男なんて慣れてます。
慣れてないのは恋愛だけ。