手の届く距離
「恋バナって女子の特権かと思ったけど、由香ぴょんとうまくいってるんだ?」

「げっ、何で知ってるんすか」

あっさり彼女の名前を出されて、彼女を特定されていることにたじろぐ。

付き合い始めたのは、先輩が卒業してからだ。

そう言えば由香ぴょんこと、由香里もバスケ部のマネだったので、当然縦で繋がっていたか。

そうすると、仲のいいマネ同士相談するかもしれない。

最後に先輩に会ったのは先輩の卒業式くらいだったが、由香里を通じてずっと繋がっていた、ということだろうか。

どこまで何をどのように語られていたかは、知るはずもない。

悪いことをしているわけではないので、別に知られて困ることもないはずなのだが、なんとも言えない羞恥心に顔を机の上に伏せる。

「女の情報網、舐めんなよ。馴れ初めから、最近返事が遅いし、連絡くれないんですぅ、って相談も、プレゼントにかっわいいチャームもらったってことまで、詳細に存じ上げてますよ」

「それって、最初からじゃないっすか・・・てか、チャーム?」

頭を乗せた机につけたまま、祥子さんの顔を見上げる。

「あげたプレゼントくらい覚えてるでしょ?そんなんじゃ、川原はリア充だと思ってるかもしれないけど、由香里ちゃんには寂しい想いしてるよ。あとでメールしとこっと」

「自分で伝えるんで、勘弁してください」

意地の悪い祥子さんの満面の笑顔。

間違いなく楽しそうなその顔を恨めしく眺めながら、完全に形勢逆転されたのを痛感する。

誕生日にネックレスをプレゼントしたのを覚えているが、『チャーム』とは何ぞや。

ネックレスの同意語だろうかと、取りあえず納得する。

2つ年下の妹にも、ついこの間、似たような状況を作られたのを思い出す。

確か、クラス友人との卒業旅行準備に追われて、由香里からメールが来たのにすぐに返信をせず、繋がっていない携帯に向かって口頭で謝って後回しにしていた。

絶対俺みたいな彼氏はいやだと妹に言われても、こっちこそ願い下げだ、と反発してやったが、今思えば結局、旅行先から帰るまで返事をしなかった自分を責められているのだろうか。

首を縮めて小さくなるしかない。
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