手の届く距離
5cm

川原健太:二次会はこちらです

女は強く、怖い。

これは妹に対しても思うし、もちろん、祥子さんを始め、由香里も、部活のマネージャーは代々それぞれの味で怖いし、川原家の最大権力は母親だ。

歓迎会で、歓迎される側だっていうのに、当日は晴香さんからはあれこれ指示をされるまま手伝い、いいように使われるし、祥子さんは忙しそうに立ち回って、やっと腰を落ち着けたと思ったら携帯ばかり気にしていた。

祥子さんが話していた気になる男が、広瀬さんだと言うことは、すぐに気づいてしまった。

祥子先輩が誰を見ていて、携帯は誰のために気にしていたのか。

嬉しそうな顔といい、視線を向ける量といい、以前キャプテンと付き合っていたころとそっくりだった。

晴香さんが女性陣の情報網を使って広瀬副店長のプライベート情報を集めていて、女子の団結力を垣間見る。

この飲み会は、合コンではなく、歓迎会だったはず。

まあ、飲み会の大事な仕事はあらかたやってくれていたので、この場を楽しく過ごしているし、あまり文句も言えない。

文句を言うなら、相手は晴香さんだ。

2次会はカラオケというベタな選択をされて、元々盛り上がっていたメンバーは次々と曲を予約し、大声を張り上げないと、隣の人の声も聞こえない。

盛り上げ隊としては一緒になって大騒ぎしながら、広めのカラオケ部屋に12、3人が詰められているのを観察する。

カラオケ開始早々から、晴香さんは店長の隣に拉致られ、ホステスばりの笑顔と接客術を見せている。

祥子さんと話をしなきゃ、と言っていたが、話は出来ただろうか?

2次会に場所を移してすぐにつぶれたやつはただでさえ狭いカラオケの座席を2人分占拠して寝ている。

祥子さんは広瀬さんの隣をしっかりキープしていて、遠くから見てる限りでは、広瀬さんも祥子さんの好意がわかってて距離を詰めてる気がする。

年が少し離れていると思ったが、この調子ならうまく行きそうな予感。

それと同時に、どこかでがっかりしている自分に苦笑する。

隠し通した想いは、思っていたより根深いようだ。

苦い気持ちを吐き出すように、回ってきたマイクに声をぶつける。

1つだけ気になるのが、晴香さんの言葉。

歓迎会の途中、10分したら迎えに来いと言われた謎の指令を遂行したら、誰ともなしに悔しそうに呟いたのを耳が拾ってしまった。

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