手の届く距離

質問をたたみ掛けてくる晴香のテンションについていけず、一息入れる。

最初こそ気分が悪くてしゃがみこんでいると信じて駆けつけてくれたのだろうが、安心してこぼれた涙について言及したいのだろう。

しかし、あれは自分でも驚いたこと。

「アレはその、ちょっと思い出し泣き。歓迎会でのことじゃなくて」

「元カレのこと?」

晴香は形のいい足を組み替えて、先ほどまでの鋭い追及の声より少し柔らかく訊ねてくる。

隣に置かれているクッションを胸に抱えて小さく頷く。

晴香はこういうことには千里眼かと思うほど的確に言い当てていく。

人のことを良く見ているし、情報網も幅広い。

「だから言ったでしょ?やっぱり祥ちゃん、前の彼のこと引きづってるのよぉ。いつもはぐらかすんだから。そこから話しなさい」

「まぁ、正直最近まで引きずってる自覚がなかったんですよ、この間まで」

適温になったコーヒーを含み、コップ越しに晴香に目をやるが、頷きもせず続きを待っている。

言えないわけじゃない。ただ、あまりにも子どもっぽく、根に持っているのを認めたくなかった。

「元カレ、一個上だったのは、話しましたよね」

前置きをして、続ける。



男子バスケット部キャプテンを張っている刈谷先輩が好きだった。

弱小高校だったので、いつも1回戦敗退だったが、試合はもちろん、練習中もみんなを引っ張り、最後まで諦めない姿。

マネージャーとのやり取りも多いし、部活中ずっと頑張っているのを傍で見ているのだ。

記録をつけるためだけれど、好きになるのは時間の問題。

ただ、先輩にとって私はただのマネージャー以外の何者でもなかった。

なのに、突然引退試合の後、先輩から告白されて。

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