手の届く距離
「確かに」

コーヒーでタルトの甘さを押し流して、晴香の言葉に頷く。

付き合っている間は、やっかみだろうと外野に何を言われても平気だった。

でも、刈谷先輩の気持ちがなかったと思い込んだら、同時に好き同士だった期間がなかったように思い込んでしまった。

思い出を必死に見ない振りをすることで、自分を守ろうと思ってたのが逆効果だったのかもしれない。

「その裏づけしたいなら、後輩君に聞いてみなさいよ。周りからどうやって見られていたかっていうのも意外と見方になってくれる気がするわぁ」

「素直でしょうけど、どうでしょ。川原は知らないんじゃないかな、後輩だし」

頬杖を付いて、川原の和むたれ目の笑い顔をを思い出す。

由香ぴょんとうまくいっているといいのだが。

「あら、祥ちゃん、それは後輩君をちゃんと評価できてなーい」

過ごした時間だけ言えばこちらの完全勝利なのに、まるで正当評価できていないかのような晴香の発言に祥子は肩を竦める。

意外な一面は、いつまで経っても人それぞれ持ち合わせているのだろう。

晴香にしか見せていない一面があるのかもしれない。

そろえた指先で机を叩く晴香さんの手をそっと重ねて止める。

「気が向いたら聞いてみますよ。晴香さんはずいぶん川原のこと気に入ってますよね」

からかうような眼差しを送るが、晴香はなぜか切なげにため息を吐く。

「うん、祥ちゃんとお似合いだなぁって思って」

晴香の発言にうなだれる。

すぐにフリーの相手を見ると誰かとくっつけたがる発言をしたが、また病気が始まったようだ。

そもそもこっちの選択権を無視している。

「またですか。今度はどんな妄想を始めてるんです」

「妄想じゃないわ、女の勘と言ってぇ。後輩君って、広瀬さんなんかよりずっとお勧め物件なのよぉ」

「なんかとは何ですか。誠君で目がかすんで、広瀬さんの良さがわからないだけです」

プイと晴香に横顔を見せる。

むぅと言いながら晴香の頬が膨れた。

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