手の届く距離
胸を張って大きく頷く晴香さんに首をかしげたが、そこからの怒涛の実例集。
「合コンで第一印象が良かった男は妻子持ちだったわ。彼女と喧嘩中で腹いせに来たって人もいたし。話が上手だと思ったら一晩のお相手探しにきた男とか、足りないから水曜日担当と木曜日担当が欲しい男とか」
「すみませんでした、もういいです。なんでそんな人が来てるの。主催者?」
次々に出てきた実例に、呻いてしまう。
もっと軽やかで爽やかな経験をしてほしいところだが、なぜか晴香は面倒を引っかけやすいらしい。
可愛くて、女性らしいところが晴香の魅力だが、魅力的な女性には自信家の男性か、そういった面倒を持ち込む男のほうがアプローチしやすいのかもしれない。
「隣の畑が青くないかチェックしに来たとか、つまみ食いでしょ」
「どんな神経してるの、そんな男はこっちから願い下げ」
晴香さんがあげる理由はどれも相手を都合使っているだけで、利己的だ。
ひどい理由に顔を歪ませる。
「だから、そう言えるように確認しておかないとぉ。アクセサリーとかぁ、女子の話題にどのくらいついていけてるとかぁ、最近の行動」
「なるほど」
納得して深く頷いてしまう。
合コンに参加している時点で彼女を探しにきているフリーだと確信していたが、そうでもない危険な世界に気付いただけでも目からうろこだ。
「で、確信した時点で暴露よね」
誇らしげに語る晴香の強かさはうらやましい。
自分が知る友人たちを思い浮かべる。
バスケバカばかりの男連中は、ドロドロしたイメージからは程遠い。
そもそも、高校生にドロドロを求めるのが間違っている。
大学の同級生も、サークル仲間も、仲睦ましい彼氏彼女や爽やかな片思いは見聞きするけれど、縺れた問題に遭遇したことはない。
そもそも、経験値が少なく、自分の受けたアプローチも対処もできない私に、反対されるとわかっているような案件を、持ってくる人がいるわけがない。