手の届く距離
聞こえてしまった情報も、聞きたいと一瞬でも思って声を掛けるのが遅くなった自分にも蓋をしてしまいたいが、過去は覆せない。
「そこの再確認も含めて、自分でやります」
「おせっかいでごめんね」
ぺろりと舌を出して見せる晴香の憎めない顔に、和解の意味を込めて先ほど奪った分のケーキを向ける。
こういう時に躊躇なく差し出したフォークに食いつく晴香のあとくされのなさは気持ちがいい。
「連絡先わかったし、まずは個人的に連絡してみます」
小さな決意を伝えると、晴香が大きく目を開いてポカンとした顔をする。
なにかまずいことでも言っただろうか。
連絡することの表明を思い返しても、特に問題点を見出せずに首をかしげる。
「3日よ!もう3日経ってるのよ、あれから連絡してないの?」
確かに、アプローチを返してくれたはずなのに、広瀬さんからも私からも一切の連絡はない。
幸か不幸か、店で会うこともなく。
「し、してません」
晴香さんの勢いに押されて手足を縮こませる。
「本気ぃ?」
晴香が呆れた声を上げるのは少しだけ仕方ないと、自分でもわかっている。
自信がない状況も手伝い、電話をしようとしても通話ボタンが押せず。
メールは何度も作り直して、結局送れないまま下書きフォルダに眠っている。
練習試合の日程決めや他校交流会のセッティングならできるのだが、どこからどのように話したらよいかわからず、うだうだ一人で悩んでいる。
「祥ちゃん、押しが足りないわ。今日までに広瀬さんからの連絡は?」
晴香は両手のこぶしを目の前で震わせてた間から、キツイ視線を投げつけてくる。
あまりに返す言葉がなさ過ぎて首を竦める。
「あ、ありません」
「広瀬さんも広瀬さんだけど、祥ちゃんも祥ちゃんよ!」
「晴香さんのおかげで前向きになれたし、すぐ行動します」
だから、落ち着いて、と怒りの収まらない晴香をなだめる。