手の届く距離
立ち上がりそうな勢いだった晴香は深く椅子に腰を下ろし直すのをみて、祥子もソファーに体重を預ける。
「祥ちゃん」
今までの勢いと打って変わって、晴香は小さく名前を呟く。
すっかり暗くなった外の景色に目を向けたまま晴香は続ける。
「うまく行ってほしいとは思ってるけど、もし駄目だったとしても、落ち込まないでね。祥ちゃんは、真っ直ぐな気持ちでぶつかって、良くても悪くても笑っていて。それに」
一度言葉を切って、突然携帯を操作し始める。
「すぐ連絡してね。祥ちゃんに会わせたい男はいっぱいいるの」
晴香は携帯の画面をこちらに向けて、笑みを浮かべる。
携帯には晴香と見知らぬ人たちが一緒に写っている。
すぐに携帯の写真を指差しながら、楠君に、将太、三橋さん、恭平様と晴香は次々に名前を挙げる。
「わかりました。一番に連絡します。胸を借りることにかもしれませんけど」
とにかく約束をして、晴香さんの男性紹介を止める。
「もちろん、Dカップはいつでも開けとくわ」
「晴香さんD!?」
スレンダーに見える身体は思ったよりダイナマイトボディのようだ。
「なによぉ、文句ある?」
わざわざ両手で胸を寄せて見せる晴香さんの手を開放させる。
「い、いえ。あの、そんなことしたらもったいない。楽しみにしておきます」
「Dカップが楽しみって、ちょっとえっちじゃなぁい?」
晴香が茶化して、笑い合う。
全く違うタイプだけれど、根底の価値観が似ているから、一緒にいられる。
怒ることに対しても、笑うことに対しても。
結果はどうあれ、背中をおしてくれた晴香と健闘を祈ってコーヒーカップで乾杯をしてみた。