手の届く距離
由香里の回復を待ちながら、店のメニューを開く。

特に問題なく呼吸が落ち着いた俺はこういう時にバスケ部で培った体力に感謝する。

顔は伏せたままだが、ようやくちゃんと座ることに成功した由香里にメニューを押し出す。

「由香里、生き返れそう?俺アイスコーヒー」

「お、同じの」

そわそわしているオーダー待ちのスタッフに注文して由香里に向き直る。

久々のデートが思わぬスタートで聞きたいことは多い。

近況よりも先に、現状と今後の対策が先決。

「話せる?」

「うん」

ようやく呼吸は落ち着ちついたが、緊張した面持ちの由香里にストーカーやら不審者のトラブルを予想する。

俺で力になれることがあるだろうか。

警察に一緒に相談に行くとかも必要かもしれない。

実際に何かされたとか、証拠がないと動いてくれないという話も聞くから、警察で対応してもらえるまでは、しばらく付き添ったりしたほうがいいかも。

勝手にあれこれ想像している俺の前で、由香里はもじもじとし始める。

「あの、ね。実は・・・」

言い辛そうに由香里は口を開くが、なかなか続きを話せないようだ。

こんなときに頼りがいがあるのをアピールしなくては、と由香里に力強く頷いて見せる。

「大丈夫。俺、力になるから。何があった?」

「ちゃんと話そうと思って。なかなか言えなくて、ごめん」

肩をすぼめて小さな体をさらに小さくする由香里に庇護欲を掻き立てられる。

もしかしてなかなか連絡が取れなかったのは、悩んでいたせいだったのかもしれないのに、たいして追求しなかった俺もいけなかった。

「こっちこそごめん、なんか言わせ辛かったかな。気にせず相談してくれたらいいのに」

由香里の困り顔が持ち上がり、小さく口を開きかけるが、また唇を閉じる。
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