手の届く距離

「もう、そういう時期じゃなくて。正直、もう自然消滅かな、って思ってたのに、連絡が来るから。はっきりしておこうと思ったの」

「時期って何。俺、全然そう思ってなかったんだけど」

勝手に思って、納得しろっていうのはかなり強引なのではないか。

赤みの残る目元にいたたまれなさを感じるが、反省して、改善したら元に戻れる問題ではないとは。

そこに至るまでに、何かできなかったのだろうかと矛先を定められない苛立ちが湧き上がる。

棘のある気持ちを隠さぬまま由香里に目を向けると、怯えたようにまた涙を溜める。

「今日は、俺と会って『別れましょう』で解散予定?」

俺が何か言うことで状況が改善される糸口も見つからず、由香里から目を逸らす。

由香里もだんまりを通している。

「うん」

何故泣くかわからないが、カバンからハンカチを取り出して、由香里は肯定する。

長居しても好転しそうにない空気といい、似合わないデパートの中のイートインスペースの居心地悪さも手伝い、伝票を手に取る。

「出るか」

無言のまま、由香里がついてくる。

ぐずぐずしている由香里の分もまとめて支払いをしていると背後で悲鳴が上がった。

振り返ると由香里の手を引いて、追いかけてきていた男が走り出すところだった。

「こんニャロ!」

急いで財布を適当にポケットに突っ込みスタートダッシュをかける。

バスケは短距離走の連続なんだ、簡単に負けるか!

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