手の届く距離
ざっくりしすぎる説明にハテナが浮かぶ。

駆けっこは謎だが、少なくともつい一週間ほど前にデートはしていたということ。

その時に別れ話が出たのだろうか。

「川原が私に元彼の話しを聞いてくるってことは、川原の彼女関係だと思うんですけど、珍しく川原が結構真面目な顔したんですよ。落ち込んでそうだったし、話を聞いてあげたかったけど、口を割らなかったんで、もし晴香さんのほうに流れたら聞いてあげてください」

硬い床から身体を起こして電気をつけるべく立ち上がる。

「後輩君が祥ちゃんに言えないことでしょう?私に流れるわけないじゃない」

当然の指摘に、言うべきか一瞬迷ってから晴香の背中を押す一言を添える。

「・・・晴香さんがこの話聞いたら、食指が動くかと」

同時に部屋の明かりをつけて、一気に明るくなる室内。

「それはもちろん、ものすごく動くわよ!待ってて!」

「あ、今もう深夜」

狙い以上の食いつきに慌ててブレーキをかけようとしたが、最後の声はどこまで届いただろうか。

すでに通話終了を知らせる電子音を止める。

川原には余計なお世話をしてしまったとも思う。

ただ、一人で解決できないことは、みんなで解決するものだから。

私に相談できなくても、晴香さんに相談できるかもしれないし。

あんなに深刻な顔をした川原は見たことがなかったから。

部屋のスイッチを見つめても何も変わらないので、お風呂に入る準備をする。

晴香さんに相談役をお願いしたはいいが、すぐに電話をしそうな勢いだったのが心配だ。

時計の長針は12を指す短針を越えている時間だ。

一緒にラストまで働いていたから起きてはいるだろうけれど、ただでさえおせっかいなのに、迷惑までかけては申し訳ない。

お湯が張られたままの湯船と追い炊き機能に感謝しながら、お風呂を堪能する。

そもそも、私が明日になってから晴香さんにお願いしたらよかった、と自分の失敗に気づいてお風呂に沈む。

鼻までお湯に浸かったところで、由香里の存在をを思い出す。

彼女のほうからなら、私が何か引き出せるかもしれない。

ただ、もしかしたら別れて修羅場の可能性も否定できないので直接は川原のことは聞けないが。

デート中に一体何が起こったのか。

惚気話を聞かされるか、別れ話を聞かされるか。

後者の可能性が著しく高い今、どっちにしても、ゆかぴょんのほうが捕まってくれそうだ。

話も聞きやすい。

お風呂を出たらゆかぴょんにざっくりと近況を探るメールを送って、あとは何も考えず就寝した。


< 61 / 117 >

この作品をシェア

pagetop