手の届く距離
途切れながら事情を話す由香里の話を繋ぎ合わせるとこうだった。



川原と別れて、新しい彼氏、宗治君が出来た。

宗治君と川原でトラブルがあった。

それが原因で宗治君と今距離を置こうと言われて別れることになりそう。

川原に謝りたいけど電話に出ない。

メールも返ってこない。



具体的なトラブルの内容や別れた時期や原因はうやむやにされたのであまり言えない事情なのだと考慮してあえて追及しなかった。

「で、結局由香ぴょんはどうしたいの?」

「別れたくないんです」

一言言っては泣き、話が進むのに時間のかかる。

お昼ごはんは絶望的で、諦めて午後の授業を受ける覚悟をする。

「だったら、川原に連絡しないで、新しい彼氏とヨリを戻す努力したらいいじゃない」

ぐずぐずと鼻をすする音が聞こえて、女の子を泣かせている、無能、は言い過ぎとして、低能男子2名にちょっと説教を食らわしたい。

今日会う約1名にはその時しっかり教えてやることとする。

耳に密着させたままの携帯が熱を持ってきたため、反対の耳に携帯を当てなおし、熱の残る耳に風を送る。

「宗治君も怒っちゃって、戻れそうにないし。健太なら許してくれると思って」

それを聞くと、別れたくない相手が宗治君ではなく、川原らしい。

勘違いを訂正するが、昨日の様子や、川原が由香里を振る姿が想像できず、首をひねる。

よっぽど新しい彼氏がひどいやつで、川原の株が上がったのか。

「いつの間に別れてたかも知らなかったけど、川原とヨリを戻したいのね。そもそも何で別れたの?理由をよく考えて。振られたのに、それでも、どうしても川原が良いって理由をちゃんと言える?じゃなきゃ、同じこと繰り返すよ」

正直、恋愛相談に乗れるほど広い見識と心を持ち合わせていないので、自分の価値観の押し付けになってしまうが、仕方なくそれで話をする。

「それでも川原が良いって言うなら、架け橋になるよ」

今日会う予定だから、というのはまだ伏せておく。

由香里の顔を思い出して、何故また女子力の高い子を振るかな、とため息を付く。

男たちの見る目は理解できない。

私が男だったら、絶対大事にするのに。

「寂しかったんです。健太、ちっとも連絡くれないし、会わなくて平気みたいだから別れてもらったけど、別れる前に、直してくれるって言ったし」

別れた理由が判明して一瞬納得しかけたが、思っていたニュアンスと違って由香里に確認する。

「ん?別れたいって言ったのは由香ぴょん?」

「はい」

即答の気持ちのいい返事。

由香里の態度が自分の考えとしっくり合わず、気持ち悪さが残る。

だって、由香里が川原を振って新しい彼氏に乗り換えたのに、その彼氏に振られたからといって川原のところに戻ると言うわけだ。

その考え方には同意できない。

「由香ぴょんが川原を振ったってことでしょ。それって都合良過ぎない?由香ぴょんが、嫌になって別れたんでしょ」

「健太は私のこと好きだったって言ってくれたから、私の気持ちが元に戻ればやり直せると思ったんです」

高校で一緒に部活してた時は癒し系の笑顔と雰囲気で周りを和ませてくれた由香ぴょんを相手に、私の顔は引きつっている。

確かに寂しがり屋ではあったと思うが、なりふり構わないほどの状況に疑問を抱く。

「そ、それなら、私から川原に聞いてみるよ。電話出てくれないんでしょ?川原がまた由香ぴょんと付き合いたい、元に戻りたいっていうなら、川原から連絡させるし、ダメだったら私がメールする。そのときは、さっぱり諦める。どう?」

「一人にしないで」

返事というよりは、嘆願。

嗚咽の間の言葉が本音なのだろう。

川原でも宗治君でもいい。

彼氏という相手でいれば誰でも。

そんな、めちゃくちゃな選択も仲介も納得できなかった。
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