手の届く距離

申し訳ないが、そういったことには疎い私は苦し紛れにピンクを選ぶ。

「やっぱり、祥ちゃん分かってるぅ。新人の子、4月から大学生1年の男の子ですって。私のこと、気にってくれるかしらぁ」

晴香は選んだピンクのチークを持ったまま、風が起こりそうなたっぷりとしたまつ毛を何度も瞬かせてこちらを向く。

先ほど自分も聞いた情報に、ああ、と一瞬納得しかけたが、女子の自分もかわいい、と思う女らしい晴香には当然のように彼氏がいるのに、この発言はいかがなものか。

「ちょっとちょっと、晴香さん彼氏がいるのに、そんなこと言ってていいんですか?」

「ときめきたいだけよぉ。誠はうまくいってるしぃ、相変わらず誠実で可愛くて素敵だから、別次元。でも、年下もいいと思わなぁい?」

恋愛体質なのだろう、年中そんなようなことを言っている。

女子スタッフが新しく入ると、まず彼氏の有無を確認し、どの男友達をあてがおうかと算段される。

男子スタッフの場合もまた然り。

私も一年前、漏れなく紹介されたが、その時は丁重にお断りした。

タイミング的に、ちょっと恋愛休憩気分だったのだ。

「年下か・・・、あんまり考えたことないですね。弟とか、後輩とか、かわいいと思いますけど」

「元彼は1つ上だっけ?」

晴香の問いに祥子は頷く。

さらに、広瀬さんは7つも年上だ。

その間を少しでも埋められるように、大人っぽく、少しでも綺麗でいたい。

バッチリメイクの晴香と比べるとシンプルな顔だろうと、思うだけは簡単。

化粧をするようになって1年経っても、晴香さんと同じようにするには手順が多すぎて続けられない。

正直なところ、晴香の言うことを全て聞いていたら、化粧品をそろえるだけで大変だ。

手を抜いているつもりはないが、どこをどのようにしたら華やかで大人っぽい顔になるかわからないまま。

自分の手鏡を見つめ続けると、難しい顔が映ってしまう。

「で、今日の首尾はぁ?」

晴香さんが肘で突いてきて、話を促される。

元々隠し事が出来ないほうではあるが、広瀬さんが素敵だな、と思った瞬間から晴香さんの追及が始まり、抱いた淡い恋心の欠片を残らず吐かされた。

吐かされることも大してありもしない時期にも関わらず。

人の言葉尻を捕らえてはじわじわ追い詰めるのは晴香さんの意地悪なところ。

おかげで協力が得られるのはありがたいところではある、不本意ながら。


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