君にドキドキする瞬間
「大前君、仕事しましょうか!」
再び鋭い視線を向ければ、流石に大前君も笑い過ぎたと思ったのか笑うのを止めた。
若干、止まりきってない気もするけど、それくらいは見逃してあげる私は相当懐が深い。
「わりぃ、わりぃ。今日、飲みに付き合ってやっからよ」
「当然、そんだけ笑ったんだから奢りでしょうね?」
「しゃーねぇから奢ってやるよ」
ぽんっと私の頭を叩く彼がニヤッと笑う。
こんな大前君からの笑いを向けられるなんて未来は狡い!と、他の同期の女子から何度言われただろうか。
それほど大前君はモテる。
ただ狡いと言われた所で、私と大前君は恋人なんかじゃなくて、残念ながらただの飲み友達というやつなんだけど。
「仕方ないから、大前君に付き合ってあげるわ」
「毎度ながら、めちゃくちゃ上からだな」
「うっさい!」
悪態を吐く私に笑顔で、じゃあ仕事終わりにな!と言いながら軽く手を振ってくれる大前君はほんとムカつく位優しかったりするんだ。
そういうところがまた、女子の心をわし掴んでいるんだろうな。
大前君の背中を見ながら、今日の仕事終わりのお酒の味が待ち遠しくて思わず頬が緩んだ私には、もうさっきまでの苛立ちは綺麗さっぱりなくなっていた。