君にドキドキする瞬間
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駅から出て直ぐにある落ち着いた雰囲気の居酒屋は、いわゆる私と大前君の行きつけだ。
二人で飲むお酒は進み、どんどん私を饒舌にさせていく。
お酒の力って凄いと思う。
「私、今日は人生初の壁ドンというものをされたのに全然ドキドキしないんだけど。寧ろかなりへこむんだけど」
「人生初が課長で、その次が電車のおじいさんってウケるよなぁ」
ケラケラと大声で笑う大前君は、楽しくて堪らないといった感じだ。
が、私は全く楽しくない。
キッと睨んで、
「大前君、それ以上言ったら首絞める」
そう脅してみても、彼の笑いは止まらない。
寧ろ、自分で自分の肩を抱き、
「おおっ、こわっ!」
と言う始末だ。
うん。もう何て言うか、……うっざー。
「まあ、でも俺も壁ドンってやつをした事なんかねぇから、良い経験じゃね?」
「こんな経験いらんわっ!」
誰が好き好んで、課長やおじいさんに壁ドンして欲しいって思うよ!
私は至って普通で、ジジ線なんかじゃないっつーの!