キスの意味
「いいなぁ。私『お見合い』なんて、一回経験してみたいです!」

両手を胸の前で組み、お祈りをするようなポーズをしながら、目線は遠くを見つめる。

「落ち着いた和室に、赤い振り袖を着て、少し緊張しながら、相手が来るのを待つんです。障子の向こうには、和風庭園が広がり「カコーン!」という鹿威しの音が部屋に響いて・・・」

「沙映ちゃんって『妄想女子』だったんだ」

私が、ウットリしながら語っていたら、小野田さんに言われてしまった。

「もっ!? 違いますぅ!『夢見る乙女』と言ってください!」

私が唇を尖らせて抗議すると、小野田さんは「はいはい」と苦笑する。

「会うの、先生の自宅だし。平日の夜だから、絶対振り袖なんか着てないし・・・」

お弁当をつつきながら、塚本さんはブツブツ言っている。

「と・に・か・く!」

バン!と両手でテーブルを軽く叩く。

「変な思い込みは捨てましょう。会ってみれば、素敵な人かもしれませんよ?」

塚本さんを見て言う。塚本さんも顔を上げて、私を見る。「ねっ」と念押しするように、小首を傾げる。

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