キスの意味
あの時は初対面だったし、いきなりこんな事を言ったら、ひかれるよなあと、我慢したんだ。

でも、今の私に、それを我慢する理由は見つからない。

塚本さんの靴に、右足、左足と順に入れる。

その場で、足踏みしてみる。

「ブッカブッカ~~♪」

なんかおかしくなって、頬が緩む。

小さい時、こっそり母のパンプスを履いた事を思い出す。

一歩前に出て、クルッと回れ右をする。

「塚本さん、靴、でか過ぎ~!」

塚本さんと小野田さんは、少し目を見開く。

その場で大きく足踏みをしながら

「足だけ大きくって、なんかのキャラクターみたいですよね!」

「例えば?」

塚本さんに言われて、ウーンと考える。

「こんにちは!ボク、ミッ○ーマ○スだよ!」

ポーズを決めて言ってみたが、ものまねのあまりのクオリティーの低さに、ちょっと落ち込む。

「「プッ!」」

塚本さんと小野田さんは、小さく吹き出す。

「あ~あ、名乗っちゃったのに」

小野田さんに、憐れみの視線を向けられる。

「すみません、行きます」

私は、肩を落としながら自分のパンプスに履き替え、休憩室を後にした。

「塚本、いろいろ大変だな・・・」

私が立ち去った後の休憩室で、小野田さんが塚本さんに、そんな言葉をかけているなんて、もちろん知るはずもなかった。
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