キスの意味
静まれ~、心臓!

ドキドキとうるさい胸に左手を当てながら、メモ帳に書いていく。

背中から、塚本さんの気配が離れ、自分のデスクに戻っていく。

「フゥ~」と静かに息を吐く。

あっ、焦った~!
もう~!心臓に悪いよっ!

まだ火照ったままの頬に右手を当てながら、なんとなく、塚本さんをチラッと見る。

すると、またもや目があってしまう。

でも今回の塚本さんは、さっきと違った。

唇の片端を上げて「ニヤッ」と笑った。

「っっ!」

私は、パッと視線を逸らすと、マウスを操作して見積書を印刷する準備をする。

笑った・・・「ニヤッ」て、笑った!

以前に、塚本さんと本屋さんで偶然会って、脇腹を掴まれた。

びっくりした私は振り返り、塚本さんのいつもと違う意地悪な笑みを見た。

あの時と、同じ笑み・・・

私、からかわれたんだ~~!

なんで!? もう、悔しいっ!

その事に気付いても、胸のドキドキや、顔の火照りが、すぐに治まる訳でもなく、思いっきり唇を尖らせた私は、パソコンに向かった。
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