キスの意味
お弁当の上にのせられたお茶を、ヒョイと私のお弁当の上にのせ、私のお弁当を、塚本さんの持っているお弁当に重ねる。

「塚本さん、白石さん達の事、お願いします!」

「水野君・・・」

塚本さんが呟いたが、私は、塚本さんの顔を見る事ができなかった。

塚本さんから視線を逸らし、野球中年達を見渡して言う。

「“ どこに住んでるの? ” “ 彼氏はいるの?” は、セクハラですからね。みなさん、発言には気を付けてください!」

「え~、マジ!?」「どこまでなら許される!?」なんて、いつも通りの野球中年達の
言葉が聞こえてきて、ちょっとホッとする。

「じゃあ、行ってきます!」

ニッコリ笑って右手を軽く上げてから、みんなに背を向け、小走りでその場を離れた。

「いってらっしゃい!」「気を付けて!」野球中年達の言葉が、私の背中に届いた。

自分の仕事、忘れてごめんなさい。微妙な空気にして、ごめんなさい。

心の中で、頭を下げる。言い逃げみたいな感じになってしまったけど、とっさに私が思いつく事といったら、これぐらいかな。

きっと今頃、高野主任や津村主任が、いつもの空気にしてくれているはず。

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