キスの意味
触れている所は僅かなのに、そこから、一気に熱が広がる。

言葉はいつもよりぶっきらぼうなのに、触れた指は、とても優しく感じた。

「沙映」と、突然名前を呼ばれた事とか、先程とはまた違う、いろんな気持ちが溢れてきて・・・

塚本さんは私から目を逸らし、フッと息を吐いた。

私が左手に持っていた野球帽をとると、私に、目深に被せる。

「その顔は、人に見せない方がいい」

先程の言葉といい、私は、どんなひどい顔をしているのだろう・・・?

「みんな待ってる。行こう」

そう言って、歩き始めた。

塚本さんは何も言わない。でも、歩調は私に合わせてくれている。

私も、何も言わずに、塚本さんについていく。

混乱していて、何を言いたいのかわからない。でも、塚本さんとの間に、いつもより暖かい空気が流れているような気もする。

テントのある芝生広場の前に、スラッとした女の人が立っていた。

「陽平さん!」

白石さんが、小走りで近付いてくる。

「雪乃さん・・・」

塚本さんが、小さく呟いた。

あっ・・・そうだった・・・

私が感じていた暖かい空気は、私の勘違いだ。

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