キスの意味
「あれは、おもいっきり誉めてたよ。おまえだけじゃなく、水野は、試合の後、一人一人に声をかけて、何かしら誉めている」

「全員に!?」

倉本は、何かを思い出したように、フッと笑った。

「ああ、全員に。例えそれが、1打席 空振り三振 しただけの出場でも、だ」

「?」

藤田の疑問に答えるように、倉本は続けた。

「『豪快なスイング、しびれました!』てな具合にな」

両手を胸の前で組み、裏声で沙映の口まねをする倉本に、藤田は、思わず吹きそうになる。

「チョロチョロ動いて、あちこちから呼ばれていたのは、そういう事ですか・・・」

「沙映に誉められる事、みんな、結構楽しみにしているからな」

倉本も、生ビールを煽る。

「マッサージも?」

「そうだな。最初は、俺が水野に頼んだんだ」

優しい笑みを浮かべたまま、倉本は続ける。

「その日は、なんだか腰がだるくてな。ここで飲んでいる時、ちょっと腰をもんでもらったんだ。あの小さな手が、ピンポイントでツボを押して、意外に気持ちよかった」
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