キスの意味
「倉本さん、おもいっきり上に乗られて、腰をマッサージされてましたね」

今日の様子を思い出しながら、藤田は言った。

倉本は、ニヤッと笑う。

「最初は横に座ってしていたけど、それじゃ力が入らないから、上に乗れって言ったんだ」

「嫌がりませんでしたか?」

「『私、重いですよ』て言うから、俺はそんなやわじゃないって返したら『それもそうですね』て、上に乗って、一生懸命に腰をもんでくれた。『ここはどうですか?』なんて言いながら・・・」

倉本は、一口ビールを飲むと、フーッと息を吐いた。

「隙だらけのくせに、こっちのちょっとした下心なんて、あいつの一生懸命には、全然相手にされない」

と言って、自嘲気味に笑った。

「藤田、あいつのつけるスコアブックは、確かにまともなスコアブックからはほど遠いけど・・・それ以上のものを、あいつは俺達に与えてくれている。スコアブックに書ききれない事を、ちゃんと自分の目で、真剣に見ている」

倉本の静かな言葉に、藤田は、座敷の出入り口近くに座っている沙映を見る。

沙映の右手を、塚本がもんでいる。

「で、そんなあいつを癒すのは、塚本の役目ですか?」
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