キスの意味
「さあな・・・こういう事は、自分達で気付かなきゃ、意味がないだろ?ああいう時、俺達がわざと声をかけていないって事さえ、わかっていないんだろうし・・・」

倉本は肩を竦めながら言う。

「見守っている・・・て訳ですか」

「カッコよく言えばな。ジャマはしないけど、手助けもしない。いつまでも気付かない方が、こっちは、いろいろとやりやすいし」

そう言って、倉本は、またニヤッと笑った。

「そういうおまえはどうなんだ?長いこと、彼女もいないんだろう?」

倉本の言葉に、藤田は、チラッと斜め前に座っている尚子を見て、すぐに俯く。

「俺は・・・仕事が忙しいんで、そんな余裕ありません」

「そうか・・・まあ、こういう事は、自分で動かなきゃな」

薄く笑いながら、藤田の肩を叩いた。



ーー藤田さんのポカン顔に満足しながら、自分の席に戻る。

「ただいま」

大根のサラダを食べている塚本さんに、腰を下ろしながら言う。

「おかえり」

私の顔を見て、穏やかな笑みを浮かべながら返してくれた。
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