キスの意味
思いっきり唇を尖らせて、藤田さんを見る。

「そんな顔で見るな!変な呼び名を付けた事、謝ろうって思ってるんだから。だいたい、この俺様と食事ができるなんて、普通の女だったら大喜び・・・」

私が、眉間に深いシワを寄せたのを見て、藤田さんは言葉を切った。

「適当に決めるぞ」と言って、高野主任はメニューを広げる。藤田さんは、胡座から正座に座り直し、頭を下げた。

「本当に悪かった。スコアブックだって、一生懸命つけていたのに、もうちょっと言い方を考えればよかった」

びっくりした。まさか藤田さんがこんな事をするなんて。でも・・・少し目を細めて、疑いの眼差しを藤田さんに向ける。

「藤田さんって、簡単に頭を下げるような人ですか?言い方はともかく、藤田さんの言った事は正しい事なのに」

顔を上げると、藤田さんは短く息を吐いた。

「尚に言われたんだよ」

「尚子さんに?」

藤田さんは大きく頷く。

「沙映は、ああ見えて結構繊細な所があるからって。俺に嫌われているかもとか、俺の事怖いとか、そんな風に思っているかもしれないって」

藤田さんは、眉間に軽くシワを寄せて、不機嫌そうな顔をする。高野主任はニヤニヤしながら、そんな藤田さんを見ているだけだ。この件に関して、もう手助けする気はないようだ。
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