キスの意味
高野主任は、隣でとうとう小さく吹き出した。

「わかりました!いろいろ引っかかる所はありましたが、もう、いいです。さっきの言葉を聞いたら、藤田さんが怖いという気持ちも、どっかに飛んでいきました!」

笑いを堪えながら言う。そんなタイミングを見計らったように、軽いノックの後、出入り口の引き戸が開いた。

「お待たせいたしました」

高野主任と藤田さんに生ビール、私にノンアルコールのチューハイが運ばれてきた。

「まずは“ 乾杯 ”だな」

高野主任がニッと笑って言う。私達は、ジョッキを合わせて乾杯した。

それから、野球の事、仕事の事、学生の時の事・・・いろんな話をした。

藤田さんは、表情がコロコロ変わり、よくしゃべる。“ 近所のいたずら好きでおしゃべりなにいちゃん ” て感じだった。

高野主任が一緒だったせいもあると思うが、初めて会った時、冷たく近寄るなオーラを出していた藤田さんとは、まるで別人だ。きっと、こっちの藤田さんの方が“ 素 ” なんだろう。

宮前さんと昼休憩が一緒になった時、宮前さんに聞いた事を、ふと思い出した。

その日は、土曜日の野球大会の事を話した。
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