キスの意味
「何も知らなかった。そんな事があったなんて・・・」

「川下部長と山根主任、池田さん。本当に限られた人しか知らないそうです」

「そういえばそいつ、夏ぐらいに営業所に異動になってたよな。変な時期の移動だったから、なんとなく覚えてる」

私は頷いた。

「尚子さんの希望もあって、そうなったそうです。その事を公にもしなかったけど・・・先輩は、移動してすぐに辞めてしまったそうです」

「そうか・・・」

「尚子さんが一番ショックを受けたのは、先輩に言われた言葉です。尚子さんを突き飛ばした後、尚子さんを見下ろして言ったそうです。『川下部長の親戚だから優しくしたのに、断るなんて。思い上がるな』て・・・」

藤田さんが、息を呑んだような気がした。

「そんな事があったせいで、尚子さん、自信をなくしてしまったそうです。職場で自分に優しくしてくれる人は、大なり小なり川下部長の事を、意識しているんではないかと・・・」

「そんな事!・・・部長の姪だとか関係ないっ!俺は、本気で尚の事!・・・」

私は藤田さんの目を見て、大きく頷いた。
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