キスの意味
私と藤田さんは、事務所の出入口の少し手前で、立ち止まって話していた。

その時、事務所の扉が勢いよく開いた。事務所から出てきた塚本さんが、一歩踏み出したところで私達に気付き、動きが止まった。

塚本さん、帰ってきてたんだ。私がトイレに行っている間かな?

塚本さんは、びっくりしたように目を見開いて、こちらを見ている。

私も、なんとなく塚本さんを見ていた。

時が止まってしまったような中で、最初に動いたのは、藤田さんだった。

私の頭から手を離し、塚本さんの方を向く。

「塚本、お疲れ!」

「お疲れ様です!」

ハッ!としたように、塚本さんも動き出した。

「これから打ち合わせですか?大変ですね」

「準備ができたから、早めてもらったんだ。今日は実家に戻るから。仕事以外にも、いろいろ忙しいんだ」

「さすが藤田さん。仕事も、プライベートも充実ですか!」

「まあな」

藤田さんは、ニッ!と笑い、塚本さんも薄く笑った。

向かい合って話す2人を、私は見上げていた。

なんだろう?2人とも、目が笑っていない?「パチパチ」と、2人の間に火花さえ飛んでいるように見えた。なぜ?

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